この記事は東大アマチュア無線クラブさん(JA1ZLO)の大学無線部アドベントカレンダー6日目参加記事です。
自己紹介
こんにちは、電子工作とアマチュア無線の部活、電気研究部 (JA1YDU)です。
つい先日、部室の倉庫整理があり、ついでに部室の掃除をしていました。無線部の皆様なら共感してもらえると思いますが、部室の掃除というものは思うように進みませんよね。
「何かに使えそう!」
「いらないけど…捨てたらもう手に入らない!」
魔法の言葉で物は増えるばかりです…
でも実際、貴重なものが多い弊部室。70周年の歴史ある部だからこそ貴重な書物や、希少な部品や機材、懐かしの××ゲーなどなど様々なものが眠っています。
CQ ham radio 創刊号発掘?!
丈夫なファイルに収められた古い書物を数冊発掘。…ってこれCQ ham radioじゃん!!
創刊号は1946年9月号。戦後まもなく発行された雑誌なのですね…77年前…!!
定価4円に時代を感じます。当時は日本アマチュア無線連盟が発行していたのですね。ロゴも当時から変わってない!
1945年8月に太平洋戦争が終わり、その翌月9月には国民への短波受信の禁止が解除された背景があります。
気になる目次は…
- アマチュアの心(八木秀次)
- アマチュア・ラジオの新しい第一歩(J2GR 笠功一)
- マグネチック・スピーカーの改良について(J6CE 西巻正郎)
- DX用受信機を作る人々のために(J2NF 石川源光)
- 戦時中現れた国産真空管特性一覧表
- 今月の技術展望
- DX・今月の空模様・短波放送帯ニュース・CALLS HEARD
- やさしい製作・2球式短波受信機の作り方(北野進)
- 新製品紹介
- 製作・調整の容易な7球式短波スーパーの作り方(J2OX 金子邦男)
- JARL NEWS
- 略字術語の解説
アマチュアの心を描かれている八木秀次さんは八木・宇田アンテナの発明者の方ですね!
記事を書いている方のコールサインがまだ4文字なのも時代を感じます。
すぐにこのような雑誌が刊行されたおかげもあり、戦後初の局面が発行されたのは6年後の1952年7月のことでした。NHKのテレビ放送が開始されたのは1953年2月なので、アマチュア無線のほうが早かったのですね!
JA1YDU局は戦後の局面発行最初期に取得した可能性が高いですね…すごい歴史だ。
CQ ham radio 創刊第2号、1号~5号表紙
1946年と終戦直後,しかもまだ日本国としてアマチュア無線再開前のころのものです。
紙の品質もわら半紙のような手触りでまだまだ戦後の苦しい時期であったことをうかがわせます。
当時の広告
CQ ham radio に載っていた広告を紹介します。
パーツ屋の広告よりも部品メーカーの広告が目立ちます。このころはまだトランジスタ発明前(トランジスタの発明は1948年)ということもあり真空管の広告がたくさんありますね!
また,ダイオードの一種であるセレン整流器が「金属整流管」と名付けられているのも真空管から半導体への歴史を感じられて面白いです。(ダイオードのアノード・カソードという名前は真空管からきています)
日立の真空管の値段を現在の価値に換算してみると…
当時の物価は現在の1/52.8なので日立の真空管は264円となります。意外と安いですね!
醫療管/医療用真空管と書いてあるのはX線源用でしょうか、夏の電研合宿で行った明治村で実物を見ました!
現存している1940-50年代のラジオや無線機で見かける部品だらけで非常に興味深い資料ですね!
戦時中に高められた生産技術が惜しみなく活かされた、高性能な標準部品の大量生産時代の夜明けを象徴するものです。
~ここからちょっとオタク語り~
上の広告の中にたびたび出てくる↓この真空管
この変わった形の真空管は日本の真空管の歴史において重要な一品です。この球はおそらく12GR4という検波・高周波増幅用の5極管ですが,12GR4の元はFM2A05Aと呼ばれた航空機用真空管です。
FM2A05Aは戦時中の日本において海軍の航空機に搭載する真空管の統一化を図るために独テレフンケン社のNF-2という真空管をベースに日本無線(JRC)によって開発され[1],検波・高周波増幅・低周波増幅をすべてこなせる「万能球」として日本軍の零式艦上戦闘機をはじめとする航空機に多く搭載される・・・はずでした。(少数ではありますが搭載はされています[2])
悲しいことに当時の日本の生産技術ではこれを安定して生産できませんでした。
時は戦時下,工業製品は物量がものをいう総力戦のためなるべく簡単に生産できてそれなりに使えるものが求められていました。そのため性能は高いが複雑で生産しにくいFM2A05Aは適していなかったのです。
これの代替品として東芝が開発した真空管が万能五極管「ソラ」です。
筆者所有の東芝製ソラ
このソラはFM2A05Aとは別の真空管をもとに設計されましたが,簡易な設計で生産性抜群,しかも性能はFM2A05Aと遜色ないという素晴らしい製品に仕上がっています。ちなみにソラの開発に関する話も非常に面白いので興味が出たらぜひ調べてみてください。
そして終戦となりこれらの軍用球はその用途を民間へと変えます。その際FM2A05Aというわかりにくい名称を捨ててアメリカ流の12GR4という名前になり短波受信機などに使われました[3]。しかしそれも長くはなく,1950年代に入るとアメリカ軍が引き揚げる際に放出した品質のいい真空管にすぐさまとってかわられてしまい,その後の日本の真空管はほとんどアメリカの真空管を手本として開発されたため12GR4のような欧州の真空管の流れを汲むものはほとんどなくなってしまいます・・・。
しかしこのとき培われた今あるものを手本としてより優れたものを生み出すやり方は,その後の日本を電子立国と呼ばれるまでに押し上げる原点となりました。
この広告は日本が軍用球をアマチュア無線に使えるという平和な時代となったのを表しているとともに,のちの電子立国日本の原点となったちょっと不遇な真空管のことを今に伝えてくれています。
(ちなみにFM2A05Aの実物は電気通信大学のUECコミュニケーションミュージアムで見ることができます,皆様行ってみてはいかかでしょうか。ZGPの回し者ではない)
[参考文献]
[1]・・・「FM2A05Aへのレクイエム」,UECコミュニケーションミュージアム, https://www.museum.uec.ac.jp/archive/arisaka/pdf/2-37.pdf, 2023/12/06閲覧
[2]・・・「海軍零式艦上戦闘機無線機材」,横浜旧軍無線通信資料館,
http://www.yokohamaradiomuseum.com/navy3.html,2023/12/06閲覧
[3]・・・「JRC R-101型5球スーパー 1946年 日本無線(株),日本ラジオ博物館,
https://www.japanradiomuseum.com/11583,2023/12/06閲覧
海,軍零式艦上戦闘機無線機材海軍海軍零式艦上戦闘機無線機材零式艦上戦闘機無線機材海軍零式艦上戦闘機無線機材
真空管語り:笹くん @sasa518me
執筆:ヤダニウム(JK1EIG)、JA1YDU一同